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<研究資料>
シリアス・レジャーの特徴を持つ
海洋スポーツイベントに関する研究
―慶良間海峡横断サバニ帆漕レースの参加者を対象とした調査―

蓬郷 尚代

1.研究の目的

シリアス・レジャーとは,カナダの余暇社会学者であるロバート・ステビンズ 1)が提唱した概念であり,「アマチュア,趣味人,ボランティアによる活動で,彼・彼女らにとって大変重要で面白く,充足をもたらすものであるために,典型的な場合として,専門的なスキルや知識,経験の獲得と表現を中心にしたレジャーキャリアを歩み始めるもの」 2)と定義されている。また,シリアス・レジャーには特別な技術・知識・経験が必要とされ,単なる自由時間や余暇にはない重要な社会的アイデンティティの形成に関与していることも報告されている 3)。近年,コロナ禍におけるランニングブームが後押ししたこともあり,ハードなトレーニングを積み,フルマラソンではサブ3.5やサブ4を目指すといったスピード・距離ともにトップレベルを目指し走っているアマチュアランナーが増加している。彼らを「シリアスランナー」と称して,ファンランナーとは区別したシリアスランナー向けのシューズなどがスポーツメーカーから販売されるようになるなど 4),シリアス・レジャーとしてのスポーツも広く認知されるようになってきている。ステビンス 5)はシリアス・レジャーの特徴として,@根気強さの必要性,Aキャリアの存在,B専門知識に基づいた努力の要求,C自己実現などの持続的利得の享受,Dアイデンティティの構築,E独自のエートスの存在,を挙げている。シリアス・レジャーに関する研究は,様々なジャンルのシリアス・レジャーがどのような価値感やエートスのもと実践されているかを明らかにしようとする研究 6)や,マイノリティによる実践 7),生活の質に対する効果 8)などについて,諸外国を中心に進められているのが現状である。

このようなシリアス・レジャーの要素を包含している活動の1つに「サバニ帆漕レース」がある。サバニ帆漕レースは「古来より受け継がれてきたサバニによる操船技術の復活と帆走の再現を目指し,次の世代へと伝えていく」という思いを具現化し,沖縄の伝統的漁船である帆掛けサバニの伝統を復興させる運動の1つとして沖縄県座間味島から那覇港までの約36kmを帆掛けサバニによって海峡横断するものであり,2000年に始まり,2019年で20回を迎えた,長期継続開催されている数少ない海洋スポーツイベントの1つである。大会名にある「帆漕」という言葉は,帆走(船に帆を張り風の力で走ること)の「走」を「漕」に変えた,この大会から生まれた造語であり,帆を操りながらエーク(櫂)を使って船を漕ぐという,古来より伝わるサバニ操船技術の再現・継承への想いが込められている 9)と記載されている。1艇の帆掛けサバニには最大6名まで乗艇することが認められている。毎年レース開催に合わせて沖縄県内外から多くのチーム関係者がレースに参加しており,第20回大会までの参加チーム数は平均34.6艇であった。第13回大会以降は,レース前日に座間味島近隣の無人島を周回する約10kmのプレ(島内)レースが開催されている。プレレース後には各艇のインスペクションが実施され,サバニや帆の大きさがルール規格内であることが確認される。また,前夜祭ではレース関係者が一同に集まりプレレース表彰式が開催される。そこには座間味島内の飲食店や民宿関係者も加わって島民による催しなどがおこなわれ,参加者同士のみならず島民との交流の場にもなっている。レース当日は,協賛企業らが支援したビーチクリーンや沖縄文化に則った航海安全を祈る祈祷がおこなわれ,7時間をリミットとする海峡横断レースがスタートする。レース後にはゴールである那覇市の泊港にて表彰式が開催される。サバニ帆漕レースは,座間味村と那覇市が共同開催し2拠点を結ぶ2日間の大規模な海洋スポーツイベントと言える。

日本においてシリアス・レジャーを扱う研究は,端を発したばかりであり多くの研究を見ることができない。また,趣味に留まらない専門的知識と技術を必要とするシリアス・レジャーとしてのスポーツ愛好家は,その特性からスポーツを趣味とする人の中でも大変人数が少ないアマチュアアスリートである。そのような希少なアマチュアアスリートがどのような行動特性を持っているのかを明らかにし,彼らが魅力を感じているレースについて検証することは,余暇活動の充実や生涯スポーツ活動への動機づけ,さらにはスポーツイベントを継続的に開催させるための要素を明らかにするための一助となると考える。

そこで本研究は,座間味島〜那覇間(約36km)の慶良間海峡を伝統木造船にて横断するサバニ帆漕レースをシリアス・レジャーの1つと位置づけ,サバニ帆漕レースに参加経験のある者を対象とした質問紙調査を実施し,シリアス・レジャーとしての海洋スポーツイベントとそれに参加する実践者の特徴を明らかにするための基礎資料を得ることを目的とした。