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TOP > コラム > シリアス・レジャーの特徴を持つ海洋スポーツイベントに関する研究―慶良間海峡横断サバニ帆漕レースの参加者を対象とした調査―
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4 .考察

4 − 1 レースキャリアと参加理由
今回の調査において,参加回数は2〜 4 回が32名(50.0%)と最も多く,初参加を除くと約90%の回答者が過去にレースへの参加経験があることが明らかとなった。その理由として,時によっては激しい潮流や前の船が見えなくなるほどの波を乗りこなさなければならない外洋がレースコースとなっていることから,海に関する知識だけでなく刻々と変化する潮流・風向・波高を感じとり,その海域が持つ特有の変化や特徴を捉えることができる海上での活動経験が必要であることが挙げられた。完漕するためには,帆掛けサバニをコントロールするためのチームワークや操船技術など多くの要素が影響し合うことから,船の特性を十分に理解したうえで同海域でのレースキャリアがあるクルーがいる必要性が示唆された。また,6名で操船するチームスポーツの要素もあり,各クルーが役割を理解しつつ全体でバランスを取るといった共通理解ができていることが必要であり,チームとしてのキャリアも求められるレースであることが考えられた。レースへの参加理由に対する自由記述においても,慶良間海峡を横断するなかで直面する自然の厳しさも含めた〈自然環境に対する魅力〉が挙げられており,慶良間海峡横断はレース経験者であっても困難な状況が起こりうるコースであることが示されている。そのような困難な状況を乗り越えようとチーム全員で必死に取り組むことが〈チームとしての楽しみ・挑戦〉に繋がり,大海原に翻弄されながらゴールを目指すといった〈冒険的要素〉が参加者の〈達成感〉として得られ魅力となっていると考えられた。

本調査において回答が得られた64.1%は沖縄県在住者であり,その多くはレース開催地である座間味島に居住するか,座間味島と何らかの関わりを持っていることによりサバニ文化が身近にあり,チームにも比較的加入しやすく,帆掛けサバニを既に所有しているといったレースに参加するための環境が整っていた。また,沖縄県在住の参加者には座間味島周辺を含め慶良間海峡を活動範囲とするカヤックガイドやスクーバダイビング業者として従事している人も多く,海域の潮流や時間による海峡の変化なども日常的な活動から体験を通して知識を得ていることが考えられた。

沖縄県外からの回答者23名のうち,沖縄県内のチームに所属していたのは6名であり,17名は東京都や神奈川県などのチームに所属する者であった。沖縄県外からの参加者は決して簡単にはゴールできないこともある慶良間海峡が包括する自然の美しさと厳しさといった自然環境に魅力を感じている回答が多くあり,沖縄県外居住者にとっては特に自然の豊かさや魅力を感じられるレースのコースであることが考えられた。沖縄県外に居住する参加者のレース平均参加回数は5.1回で,10回以上の参加経験がある回答者は5名おり,沖縄県内に居住する参加者のレース平均参加回数5.9回と比較しても大きな差はなく,参加者の居住地に関係なく20回開催されてきたレースのなかで経験を積み重ねていることが明らかになった。

4−2 マイノリティによる実践の工夫
サバニ愛好家であるレース参加者は,サバニを保管するための艇庫がある座間味島にサバニを置いているとの回答が56.3%と最も多く,座間味島居住者のみならず沖縄県外に居住する回答者にも見受けられた。次いで沖縄県糸満市にサバニを保管しているとの回答が20.3%であった。沖縄本島に居住する回答者が多く,糸満市のサバニ浜は,現在では数少ないサバニ大工の工房がある場所であった。シリアス・レジャーとしてのスポーツにおいては,経験の積み重ねと専門知識に基づいた努力(練習やトレーニング)が求められるが,シリアスであるが故に同じ専門志向を持つ仲間が近くにいることが少ないことも特徴の1つであると言われている 10)。レースで用いるサバニは個人で海に漕ぎ出せる大きさではないため,回答者はサバニ保管場所を練習拠点とし,サバニを置いている複数のチームのクルーが集まって練習するといった練習環境を工夫していることが示された。特に糸満市の保管場所はその傾向が強く,沖縄本島に居住するサバニ愛好家たちがチームの垣根を越えてお互いのサバニに乗り合い,そこで得たものを自らのチームに持ち帰るといった工夫をすることで,チームの人数が揃わないことや愛好家が少ないといったマイノリティを克服していることが考えられた。

4−3 参加者の行動特性
サバニ帆漕レースに参加するためには,座間味島居住者を除き沖縄本島から座間味島へ移動する必要がある。座間味島ー那覇間は1日3便の高速船もしくは1日1便のフェリーでの移動となる。前日のプレレースを含め,レースに出場するためには少なくともレース前日には座間味島内に到着している必要があり,必ず島内での宿泊が伴うことになる。レースにあたり座間味島島内での滞在期間は,座間味島居住者を除いた回答者では2泊3日が最も多く,サバニの調整・整備や現地でのチーム練習のほか,海況の確認を含め自然に馴染むための時間としていることが示唆された。また,島内で宿泊を伴うことにより宿泊施設などにおいても島民との交流や,他の参加者との交流を図る機会にもなっていることが考えられた。

一方,座間味島居住者は那覇にてゴールする時刻には,那覇から座間味島への移動手段が既に途絶えている時間であることから,那覇市内に宿泊せざるを得ないことになる。沖縄本島での滞在期間のうち「後泊のみ(28.1%)」と回答したほとんどは座間味島居住者であり,沖縄本島居住者は「宿泊しない(31.3%)」との回答が多かった。沖縄県外からの参加者は,レース後のサバニ保管場所への移動や片付けを含め沖縄本島で「前・後泊(32.8%)」しており,サバニ帆漕レースは沖縄県外からの参加者にとってはレースに付随した観光も含めたスポーツツーリズムの要素を持つことが考えられた。

4−4 サバニ帆漕レースの魅力
シリアス・レジャー実践者において同じ専門志向を有する仲間がそれほど多くないことは前述のとおりであるが,回答者はマイノリティでありながら継続的にサバニ帆漕レースに参加している傾向があった。レースへの参加を決めた理由にも挙げられているとおり,座間味島ー那覇間の慶良間海峡を横断するコース設定において,景観の素晴らしさおよび決して容易ではない海峡横断の難しさも含めた〈自然環境の魅力〉があることが指摘できる。また,そのコースには〈冒険的要素〉が多く含まれており,参加者にとっては困難な状況を乗り越えてゴールした〈達成感〉に繋がっていることが考えられた。参加者による満足度調査においても,「C本レース(古座間味〜那覇)コース」において「非常に満足」との回答は54.7%とすべての質問の中で最も高い支持を得ており,「やや満足」の回答を含めると参加者の約8割がコース設定に満足していた。美しい景観と,海況を攻略するための知識や判断力,そして操船技術を駆使することになるコース設定がサバニ帆漕レースの魅力に繋がっていることが示唆された。サバニ帆漕レースは20回を超えるという長期継続するスポーツイベントとなっている。離島と沖縄本島を結ぶコース設定が沖縄本島に居住するサバニ愛好家や沖縄県外のマイノリティを巻き込み,座間味島内の参加者だけに留まらないサバニ愛好家が集まるイベントに成長した要素の1つであることが考えられた。

また,サバニ帆漕レースはチームで1つのサバニを操船する面白さや,〈サバニを通じた共感性〉といったチーム一丸となって目標に向かう〈チームワーク〉を要することが,他のシリアス・レジャーとは異なる魅力となっていることが指摘できる。