5．まとめ
本研究の目的は，慶良間海峡を伝統木造船にて横断するサバニ帆漕レースをシリアス・レジャーの特徴を有する活動の1つと位置づけ，シリアス・レジャーとしての海洋スポーツ実践者の特徴を明らかにするための基礎資料を得ることであった。サバニ帆漕レースには，海況の変化を瞬時に捉えて対応し，船の特性を十分に理解したうえでサバニをコントロールできるといった操船経験が要求され，各クルーが役割を理解しチーム一丸となりゴールを目指すといったチームとしてのキャリアも求められるといった他のシリアス･レジャーとは異なる特徴が認められた。また，参加者は沖縄県内・県外の居住地に関係なく複数回のレース参加経験があり，20回開催されてきたレースのなかで，慶良間海峡横断に関わる自然環境を理解し，帆掛けサバニ操船経験を積み重ねていることが明らかとなった。
参加者がレースへの参加を決めた理由については，レースもしくは動力のない舟艇で海に出る行為自体を示唆した〈アイデンティティ〉の他，〈サバニ文化が身近にあった〉，伝統木造船である〈サバニの魅力〉といった古くからサバニと関わりのある地域であるが故の理由や，サバニを所有できたといったレースに参加するための〈環境が整う〉ことが挙げられた。また，開催地である座間味島やコースである慶良間海峡の〈自然環境に対する魅力〉や，〈チームとしての楽しみ・挑戦〉，〈個人としての楽しみ･挑戦〉，〈レースに付随する楽しみ〉といった刻々と変化する自然環境に挑戦することやチームの仲間と共通体験を共有できる楽しみなどが起因する8個のカテゴリーが挙げられた。
参加者の行動特性としてレース中の滞在期間については，座間味島居住者以外の参加者はサバニの調整・整備や現地でのチーム練習のほか，海況の確認を含め自然に馴染むための時間としてレース3日前から座間味島に入っていることが示され，座間味島居住者はレース後に沖縄本島にて宿泊していることが示された。
レースの魅力については，10個のカテゴリーが挙げられた。参加者は海峡横断に挑戦するという〈イベント性〉や〈非日常的な体験〉のみならず，自然を相手にする〈冒険的要素〉が含まれる慶良間海峡を横断するコース設定について高い支持を示しており，困難な状況を乗り越えた〈達成感〉が得られるレースであった。開催地やコースにおける〈景観〉や〈自然への理解〉，〈サバニそのものの魅力〉といった，帆を操りながらエーク（櫂）を使って船を漕ぐという古来より伝わるサバニ操船技術の再現と文化継承を目的に開催されたイベントならではとも言える魅力が挙げられ，沖縄県外居住者にとっては，自然の豊かさや魅力を感じられるコース設定であることが示された。
シリアス・レジャーの特徴として専門志向を持つ仲間が近くにいないマイノリティが挙げられるが，サバニレース参加者はサバニ保管場所を拠点として，チームの垣根を越えて練習をするといった環境を整えていた。また，レースにおいては，同じ海峡横断の困難を乗り越えゴールを目指した共通体験によって異なるチームであっても〈サバニを通じた共感性〉を認識しており，〈チームワーク〉や〈仲間との交流〉がレースの魅力として挙げられ，レースへの再参加意欲にも繋がっていた。
最後に，20回を迎えたサバニ帆漕レースを今後も引き続き継続していく海洋スポーツイベントにしていくための課題として，サポーターや観戦者の応援環境について検討していく必要性が示唆された。
附記 ：本研究はJSPS科学研究費18K10922の助成を受けたものです。
引用文献
1） Stebbins, R. A. : Serious Leisure: A Perspective for Our Time. Transaction Publishers, 1―23, 2015.
2） Ibid., p. 5.
3） 橋本和也：スポーツ観光研究の理論的展望―「パフォーマー・観光者」への視点，観光学評論，4（1）：3―18，2016.
4） 繊研新聞社電子版，オンジャパンがランニング向け再強化 よりシリアスランナーへ，https://senken.co.jp/posts/on-running-220815（閲覧日：2022年11月7日）.
5） Stebbins R. A. : Amateurs, Professionals and Serious Leisure. McGill-Queen’s University Press: Montreal, 1992.
6） Patterson, I., Getz, D., & Gubb, K. : The social world and event travel career of the serious yoga devotee. Leisure Studies, 35（3）: 296―313, 2016.
7） Lee, C., Sung, Y.-T., Zhou, Y., & Lee, S. : The relationships between the seriousness of leisure activities, social support and school adaptation among Asian international students in the U.S. Leisure Studies, 37（2）: 197―210, 2018.
8） Heo, J., Stebbins, R. A., Kim, J., & Lee, I. : Serious Leisure, Life Satisfaction, and Health of Older Adults. Leisure Sciences, 35（1）: 16―32, 2013.
9） サバニ帆漕レース公式ホームページ，https://www.photowave.jp/sabani_s/（閲覧日：2022年8月21日）.
10） Stebbins R. A.，前掲書，3―8．
本研究の目的は，慶良間海峡を伝統木造船にて横断するサバニ帆漕レースをシリアス・レジャーの特徴を有する活動の1つと位置づけ，シリアス・レジャーとしての海洋スポーツ実践者の特徴を明らかにするための基礎資料を得ることであった。サバニ帆漕レースには，海況の変化を瞬時に捉えて対応し，船の特性を十分に理解したうえでサバニをコントロールできるといった操船経験が要求され，各クルーが役割を理解しチーム一丸となりゴールを目指すといったチームとしてのキャリアも求められるといった他のシリアス･レジャーとは異なる特徴が認められた。また，参加者は沖縄県内・県外の居住地に関係なく複数回のレース参加経験があり，20回開催されてきたレースのなかで，慶良間海峡横断に関わる自然環境を理解し，帆掛けサバニ操船経験を積み重ねていることが明らかとなった。
参加者がレースへの参加を決めた理由については，レースもしくは動力のない舟艇で海に出る行為自体を示唆した〈アイデンティティ〉の他，〈サバニ文化が身近にあった〉，伝統木造船である〈サバニの魅力〉といった古くからサバニと関わりのある地域であるが故の理由や，サバニを所有できたといったレースに参加するための〈環境が整う〉ことが挙げられた。また，開催地である座間味島やコースである慶良間海峡の〈自然環境に対する魅力〉や，〈チームとしての楽しみ・挑戦〉，〈個人としての楽しみ･挑戦〉，〈レースに付随する楽しみ〉といった刻々と変化する自然環境に挑戦することやチームの仲間と共通体験を共有できる楽しみなどが起因する8個のカテゴリーが挙げられた。
参加者の行動特性としてレース中の滞在期間については，座間味島居住者以外の参加者はサバニの調整・整備や現地でのチーム練習のほか，海況の確認を含め自然に馴染むための時間としてレース3日前から座間味島に入っていることが示され，座間味島居住者はレース後に沖縄本島にて宿泊していることが示された。
レースの魅力については，10個のカテゴリーが挙げられた。参加者は海峡横断に挑戦するという〈イベント性〉や〈非日常的な体験〉のみならず，自然を相手にする〈冒険的要素〉が含まれる慶良間海峡を横断するコース設定について高い支持を示しており，困難な状況を乗り越えた〈達成感〉が得られるレースであった。開催地やコースにおける〈景観〉や〈自然への理解〉，〈サバニそのものの魅力〉といった，帆を操りながらエーク（櫂）を使って船を漕ぐという古来より伝わるサバニ操船技術の再現と文化継承を目的に開催されたイベントならではとも言える魅力が挙げられ，沖縄県外居住者にとっては，自然の豊かさや魅力を感じられるコース設定であることが示された。
シリアス・レジャーの特徴として専門志向を持つ仲間が近くにいないマイノリティが挙げられるが，サバニレース参加者はサバニ保管場所を拠点として，チームの垣根を越えて練習をするといった環境を整えていた。また，レースにおいては，同じ海峡横断の困難を乗り越えゴールを目指した共通体験によって異なるチームであっても〈サバニを通じた共感性〉を認識しており，〈チームワーク〉や〈仲間との交流〉がレースの魅力として挙げられ，レースへの再参加意欲にも繋がっていた。
最後に，20回を迎えたサバニ帆漕レースを今後も引き続き継続していく海洋スポーツイベントにしていくための課題として，サポーターや観戦者の応援環境について検討していく必要性が示唆された。
附記 ：本研究はJSPS科学研究費18K10922の助成を受けたものです。
引用文献
1） Stebbins, R. A. : Serious Leisure: A Perspective for Our Time. Transaction Publishers, 1―23, 2015.
2） Ibid., p. 5.
3） 橋本和也：スポーツ観光研究の理論的展望―「パフォーマー・観光者」への視点，観光学評論，4（1）：3―18，2016.
4） 繊研新聞社電子版，オンジャパンがランニング向け再強化 よりシリアスランナーへ，https://senken.co.jp/posts/on-running-220815（閲覧日：2022年11月7日）.
5） Stebbins R. A. : Amateurs, Professionals and Serious Leisure. McGill-Queen’s University Press: Montreal, 1992.
6） Patterson, I., Getz, D., & Gubb, K. : The social world and event travel career of the serious yoga devotee. Leisure Studies, 35（3）: 296―313, 2016.
7） Lee, C., Sung, Y.-T., Zhou, Y., & Lee, S. : The relationships between the seriousness of leisure activities, social support and school adaptation among Asian international students in the U.S. Leisure Studies, 37（2）: 197―210, 2018.
8） Heo, J., Stebbins, R. A., Kim, J., & Lee, I. : Serious Leisure, Life Satisfaction, and Health of Older Adults. Leisure Sciences, 35（1）: 16―32, 2013.
9） サバニ帆漕レース公式ホームページ，https://www.photowave.jp/sabani_s/（閲覧日：2022年8月21日）.
10） Stebbins R. A.，前掲書，3―8．
